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「このプロジェクトは、平瀬さんにとって難易度が高く、つらいかもしれない。正直迷ってる。挑戦してみたい?」
認知症に備えるためのブレインパフォーマンスアプリ『Easiit』※のUIデザイナーとして平瀬亜由美がアサインされた時、上長から言われた言葉だ。
「入社前からヘルスケア事業に興味もありましたし、そういうチャレンジングなアサインの話が自分にきたこと自体がまず嬉しくて、やりたいです!と返事しました」
嬉しさで自ら厳しい状況に飛び込んだ彼女だったが、最初は手も足も出なかったという。
「UIってどうやってつくるんだろう?ツールの使い方は?というところから。何も分かっていない状態だったので、ミーティングに参加しても発言もできなくて、キャッチアップ一辺倒になってしまって。理想とするユーザー体験をつくるにはどういうUIが良いかを考えないといけないのに、“こういう体験をして欲しい”という頭の中のイメージを自力で形にすることができませんでした」
アサイン時にはそんな状況だった彼女だが、上長からフィードバックを日々貰うことにより、徐々に形にするスピードも上がってきた。そもそもこの機能で良いのか、とだんだん視野を広げて考えることができるようになり、3カ月が経った頃には体験を議論する企画段階から入るように。今ではコアメンバーとして活躍している。
※『Easiit』は、エーザイ株式会社とDeNAの子会社であるDeSCヘルスケア株式会社が共同で開発・運営しています。
“毎日成果を出し続ける”ことは、言うは易く行うは難しい。彼女を動かしたのは、何だったのだろうか。
「デザインの力で課題を解決したいんです。Easiitも認知症という大きな課題に向き合っています。このアプリによって、認知症に対して漠然と不安を抱えるユーザーが、脳と身体の健康状態を記録、可視化し、ライフスタイルの改善や早期の医療受診が可能となる。そんな大きなビジョンを描いています」
「大学生の時に、LGBTなどジェンダーの問題に対してデザインでアプローチする作品をつくりました。この頃からデザインで問題を解決することに興味を持ち始めて、私はデザインがしたいというより、何か問題を解決するためにデザインを使いたいんだ、ということに気づきました。DeNAに入社したのも、ヘルスケア事業やオートモーティブ事業など社会課題をデザインで解決する機会が得られると思ったからです」
デザインで社会課題を解決することを仕事にする後押しとなったのは、つくったものが誰かに使ってもらえる、そして喜んでもらえるという経験だった。
「この時は、性の多様性を理解してもらうための本をデザインしたんですけど、自分が伝えたかったことを感想でもらって嬉しかったんです。課題に対してデザインしているプロセスも楽しかったですし、つくったものを実際に使ってもらえているのを見て、デザインすることに意義を感じました」
自分がつくったものを誰かに使い喜んでもらいたい、という気持ちを強くする機会は入社後まもなく訪れた。
「昨年の日比谷音楽祭※を、アプリのUIデザインを担当していた先輩と一緒に見に行かせてもらったのですが、たくさんの方がアプリを使ってくれているのを見て感動している先輩の姿が印象的で。私もその感動を味わいたいと思いました」
そのことを周囲に伝えていた彼女は、今年度のプロジェクトにアサインされることになる。
「今年の日比谷音楽祭は、新型コロナウイルスの影響で開催中止となりましたが、おうちで音楽を楽しんで欲しいという想いからアプリだけはつくることになりました。アプリを通してみんなが音楽に関するエピソードを語ってくれたらいいな、と考えてつくったので、リリース後に自分が思い描いていた感情をツイートしてくれている方を見た時は、本当に嬉しかったです」
嬉しそうに話す彼女だが、この日比谷音楽祭のアプリ制作プロジェクトは前述のEasiitと同時進行であった。
「締め切りまでにできます、と言っておきながら結局デザインが間に合わないということがありました…。そこで周囲に早めにアラートを出すことを学びました。人に頼ってでも期限を守るってことがタスクマネジメントなんだと」
「誰かに頼ることは、人に迷惑をかけてしまうので良くないことなんだと思っていたんですけど、それは建前で自分の評価が下がることを気にしていたんですよね。プロジェクトのことを考えたら、周囲に協力を仰ってでも成功を目指すことが正解ですし、結果として人に迷惑をかけないことに繋がります。今は、任されたことを遂行するのは当たり前で、期待されていたこと以上のことをできるかが常に試されていると思っています」
※日比谷音楽祭は、音楽プロデューサーである亀田誠治氏が実行委員長として立ち上げた、フリーで誰もが参加できる、ボーダーレスな音楽祭。DeNAは、公式アプリを日比谷音楽祭事務局と、世界的デザイナーである佐藤オオキ氏率いるデザインオフィスnendoと共に制作した。
プロジェクトマネージャーやエンジニアなど他職種のメンバーとチームで仕事をする大変さも経験したという。
「より良いUXを求めて、機能について議論していた時に、お互い譲れない部分があって意見がぶつかったんです。ロジックで言い負かされて、悔しくてエレベーターの前で泣きました。でも、私そういう時にすごく頑張れるんです。この時は、すぐにプロトタイプを複数つくりました。ここまでは必要ないかなっていうところまでつくって、実際に触ってもらいながら、もう一回みんなで考え直して分かってもらえました」
こういう悔しい経験は大歓迎だと彼女はいう。
「過酷な環境に行くときも、何もできない状態でレベルの高い人達のところに行くときも、自分もそういう人になれるんじゃないかって、ワクワクします。でも、実際行ってみたらずっとしんどいんですけどね(笑)」
「今後は、Easiitを世の中にもっと届けたいです。まだまだ自分の価値が発揮出来ていないですし、プロダクトのためにできることがまだまだあります。リリースまでの段階も大事ですが、リリースしてから実際にユーザーの方に使ってもらう状況でこそ価値を発揮できていないとダメだと思っています。これからもデザインで議論を加速させ、チームでプロダクトの課題を解決し、数字に現れる結果を出していきたいです」
「サービスのビジュアル面を綺麗に整えて終わるのではなく、人の行動や生活が変わるところまでが見たい。“デザイナーは何かを良い感じにつくってくれる人”という捉え方はされたくなくって、デザイナーも事業をつくる一員だということを証明して、デザインの力で事業をつくっていきたいです」
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
※一部、旧オフィスの写真が含まれます。
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